(インタビュー実施日:2023年6月14日)
”漁師になるきっかけは親孝行。その先にある地域にも貢献したい”
■前職は保育士とのことで、経歴を聞いて驚きましたが、なぜ漁師になろうと思ったのですか。
元々、うちは、祖父、父と漁師の家系でした。幼少期のころは生き物が好きということもあり、父の手伝いをしていましたが、漁師を職業にしようとは思っていませんでした。
漁師になろうと思ったきっかけは、父が後継者として外部の若い方を連れてきた時です。父があまりにもそれを喜んでいたこと、また代々継承されてきた漁師の仕事を、外部の方が継承してしまうということに自分は嫉妬心を覚えてしまいました。
結局、承継しようと外部から来た方は途中で漁師を辞めてしまいましたが、その時、自分が父を喜ばせて親孝行をしたいという気持ちが芽生え、またそれが地域貢献にも繋がるのだと強く感じたことを覚えています。
私は、漁業に従事する地域の方々に育ててもらった感覚がとても強く、地域の方々や漁業の未来に貢献したいという気持ちが強くなり、漁師になることを決意しました。
”漁業は可能性に満ちた業種。自分の力量でどうにでもできる。漁業の魅力を広めていきたい”
■漁業の魅力とは何ですか。
漁業に対して、世襲やしがらみが強いといったイメージがありますが、現在は規制も緩和され、誰でも従事できる産業となりました。
私が雇用されている会社では、私が入社した時期から常時雇用の形態に変わり、安定した収入や保障も受けられるようになっています。
勤務時間も決まっているため、勤務時間以外の時間を別の事業に費やすこともでき、自分の頑張り次第でより多くの収益を上げることができるようになっています。
現在、このような漁業の魅力を広めていき、漁業従事者を増やしていく活動もしています。
”目標の実現に向けて時間を有効活用し、さらなる収益を得る。今やっていることの延長線上で自分がやれることから挑戦する”
■なぜ漁師の傍ら、新たに起業し、水産加工業に取り組んだのですか。
私は定置網業の会社に雇用されているため、午前中は定置網業に取り組んでいます。就業時間は朝から昼頃までの6時間ほどであり、午後の空いた時間で何かできないかとずっと思っていました。
ある日、漁村のソウルフードである貝(カメノテ)の取り手が高齢化により減少する中、飲食店がその貝を求めていることを知りました。私は漁業権を持っていたため、その貝を採取し、居酒屋などの飲食店に営業活動をしたのが、今の事業をはじめるきっかけとなりました。
このような活動を情報発信する中で、同じ志を持つ仲間が増えていき、現在の塩辛等を扱う水産加工会社を経営するまでに成長しました。
”意見交換と共感の場を作る大切さ”
■水産加工会社を起業して、得られた経験は何ですか?
メディアに取り上げられたことで、漁業や水産加工業に関し、多くの方に広く知っていただくことができました。それにより、幅広い業種の方との意見交換の場も増え、ビジネスに関し多くの学びを得ることができ、まさにコンサルを受けているような気分です。
この経験から、ビジネス成功のためには外部の意見を取り入れ、共感を得る場を提供することが不可欠だと感じています。
現在株主は5名ですが、15名以上の方が事業に携わってくれており、共感を得たメンバーが今でも増えている状況です。
”自分のビジョンを人に話す。やってみよう精神を持つことが大事”
■起業の決断を踏み切れなくて、悩んでいる方へ何かアドバイスはありますか。
「やりたいのにやらなかった」ということは、一番ダサいことだと思います。
まさに私自身、友人たちにビジョンばかり話をし、それを実行しない人間でした。そのうち周囲から「口だけ人間」のような扱いを受けるようになり、それではダメだという強い思いが後押しとなり、起業を決意したのです。
「とりあえずやってみよう!」という気持ちで始めてみると、その想いが自信に繋がり、次第にそこでの経験を周囲の人へ語れるようになりました。また、私の話に対する周囲からの反響が「面白い!」と感じるようになり、それが次の原動力となっています。
”成功は失敗の先にある”
■失敗することへの恐怖心はありませんか。
そもそも、失敗を恐れている人が成功したいなど、おこがましい話だと思います。
やらなくて得られるものは一つも無いし、新しいことへチャレンジするならば、失敗して当然だと思っています。ただ一歩踏み出すことで必ず道は見えてきます。
ダメな部分は方法論を組み立てて、方向性を定めていけば潰せますし、排除できるので、自ずと成功する自信を持てるようになります。失敗しない前提で成功しようと思うから、結果的に何事も遠回りになってしまうのだと思います。
”法人化することで、ルールが整備され、皆で頑張る意識に変化。法人化で問題は解決する”
■商売をする中で、何か課題に感じた点、失敗した点はありますか。
個人で商売をしていた際、商品を卸していた飲食店は馴染みの店ということもあり、きちんとした契約や決まりを定めていませんでした。その結果、支払いに関し「なあなあ」になってしまい、資金の回収に時間がかかり、資金繰りに苦労する経験をしました。これをきっかけに、取引をする際は、きちんとお互いにルールを定めることが大切だということを学びました。
現在では、法人化し、支払いのルールを今まで以上に整備したことで、ビジネスの成長に向けた安心感が得られています。
また、以前個人事業主として事業を行っていた時は、スタッフの人件費を支払うのにとても苦労しました。仕事を頑張ってくれる人にはより給料を支払いたい一方で、給料を支払えば自分の手取りが減ってしまうということで、色々と苦しめられました。しかしながら、法人化することで、自分たちで自分たちの会社に出資し、皆が経営者意識を持つようになりました。その結果、「みんなで頑張ってみんなで得た収益をみんなで分けよう!」という意識に変わり、今では人件費の問題も解決されたと感じています。
”変化を恐れない気持ちを持つ。考えを言葉で伝えることが大切”
■スモール・ビジネスを始めたいと思っている人へ何か一言ありますか。
飛び込める環境があるなら、飛び込んだ方がいいと思います。失敗への恐れや安定を失う不安が生じ、すごく怖いとは思いますが、 やらないほど怖いものはないです。
変化を恐れない気持ちを持つことが大事です。やりたいんだったら、やってみること。踏み出す勇気が持てないのならば、やりたい事業の構想を他の人に話してみることが大事です。
様々なツールを通じ、アウトプットが容易にできる時代になりましたが、直接、人に会って自分の言葉で話をするということが何よりも大切だと思っています。
”率直な意見を聞くことができ、考えを整理することができた”
■アドバイザー派遣事業を受けてみていかがでしたか。
やりたいことが多すぎて考えがまとまっていなかったため、アドバイザーから助言を受けながら、絞っていくという作業ができて良かったです。
今まで私たちの事業に関わってくれた人は、私の考えを肯定してくれる方が多かったです。それはそれでありがたい話ですが、それだけでは私としては、面白みもないですし、ビジネスの参考にもなりませんでした。
一方、アドバイザー派遣事業を通じ、経済面も考慮し具体的にやれることとか(実行可能性)、スタートアップとしてまず何をやっていくべきか(優先順位)、といった話をすることで、事業の方向性や経営者としての目線がはっきりしてきました。
「膨れ上がった私たちの事業アイデアや考えを削ぐ」という作業ができたのは、アドバイザー派遣事業のおかげであり、本当にありがたかったです。
またビジネスに関する知識も増やすことができました。
”地域ビジネスのお手本となるような「M.F.F.パッケージ」を全国に広めていきたい”
■今後の目標を教えてください。
今後、新しく飲食店をオープンします。このお店では、商品を提供するだけではなく、提供する商品をお土産用の冷凍商品としても購入&発送もできるようにし、併せて、この小さな漁村だからこそできる、商品作り、魚捕り、これらを包括的に体験できる場をビジネスとして広げていきたいです。
また、将来的には、森を活用してサバイバルゲームができる施設なども手がけていきたいと考えています。漁業の枠にとらわれず、農業、林業とも協力し、事業を拡大していきたいです。
そして、我々のビジネスモデルを「M.F.F.パッケージ」として、全国の地方へ広めていきたいと考えています。
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